肺動脈性肺高血圧症

肺動脈性肺高血圧症とは

心臓の右心室から肺に血液を送り出す血管が肺動脈です。肺は呼吸を行い、肺胞でのガス交換により入ってきた酸素を肺動脈末梢で血液に取り込みます。肺を循環した酸素飽和度の高い血液はまた心臓に戻り、左心室から全身に拍出されます。肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺動脈の細かい血管が狭く、硬くなり肺動脈圧が異常に上昇する疾患です。PAHには膠原病などの全身疾患に伴う場合と原因が特定されない特発性肺動脈性肺高血圧症とに分類されます。いずれもこの疾患の成因はまだ十分解明されておらず、また有効な治療法に関してもさらに研究開発が必要とされ、このためPAHは「難治性呼吸器疾患(指定難病86)」に認定されます。2020年度の難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究班による報告では全国患者数 4230名とされ、頻度の少ない疾患です。

血行動態と症状

肺動脈圧が高くなると右室に負荷がかかり、右心室の拡大、体静脈圧の上昇を来します。また、肺胞での血液のガス交換が障害され動脈血の酸素飽和度が低下し低酸素血症となります。左心室へ戻る血液量の低下から心拍出量は低下します。静脈圧上昇は、浮腫や胸水などの体液貯留をきたし、低酸素血症によりチアノーゼや労作性の呼吸困難、意識消失など出現します。

検査・診断

① 心エコー・ドプラー検査を行い、右室拡大と推定肺動脈圧上昇を確認する。
② 肺換気/血流シンチグラム、CT検査、肺機能検査
③ 肺高血圧をきたす、以下の疾患が除外される。
・肺血栓塞栓症(肺動脈造影CT、D-ダイマー、肺血流シンチなどにより鑑別)
・慢性閉塞性肺疾患などの慢性呼吸器疾患(肺性心)
・心房中隔欠損症などの先天性心疾患に伴う肺高血圧
④ 右心カテーテル検査を行い、肺動脈圧上昇を証明(平均肺動脈圧≧25mmHg、肺動脈楔入圧≦15mmHg)。

肺動脈性肺高血圧症(PAH)の原因

・特発性肺動脈性肺高血圧症(原因が不明)
・遺伝性(関与する遺伝子が判明しているがメカニズム不明)
・膠原病性(強皮症、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群など)
・その他の全身疾患に伴うPAH
(薬物誘発性(ある種の漢方薬)、HIV感染症、住血吸虫、門脈圧上昇をきたした肝疾患など)
※特発性と膠原病性がPAHの多くを占めます。
※広義には、先天性心疾患に伴う肺高血圧症が含まれます。
※慢性的な肺高血圧として類似の病態を示す慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)があり、指定難病88に分類されます。抗凝固療法や肺動脈の侵襲的治療を併用することがあり鑑別が必要です。

治療

・心不全に対する一般的な薬物治療
・酸素療法
・肺血管拡張薬

PAHの心エコー所見

① 心室中隔の左室側への偏位、圧排像を伴う右室拡大を認める。
右房、下大静脈拡張。
左心室の拡大や収縮低下は通常認めない。
② ドプラー法よる三尖弁逆流血(TR)の流速評価で推定右室圧が上昇(TRPG≧40mmHgで肺高血圧が示唆される)。
③ 心房中隔欠損症などの先天性シャント疾患が除外される。
※心エコー・ドプラー検査はPAH診断の第一歩として有用です。ただし、同様の心エコー所見を呈する頻度の高い疾患として、肺血栓塞栓症があります。PAHは慢性疾患ですが肺血栓塞栓症は急性発症で治療に緊急性を要します。①、②の所見を認め、肺血栓塞栓症が否定される場合はPAHを疑い、専門病院での精査が必要です。